金融機関の格付は実態財務で行う(事務所通信「FinanceNews2023年3月号」より)

1.はじめに

 3月決算の企業が間もなく期末を迎え、5月申告に向けて準備をしている頃かと思います。金融機関では企業から提出された決算書を基に毎年格付査定を行います。企業側からすると今後借入をする際の融資条件(金利が低くなったり、高くなったり。借入可能額等)に関わってきます。
 今回は金融機関が正しい格付を行うために自社で行っている実態財務の修正の裏側と、どのような基準で格付をしているかについてお話しいたします。

2.実際財務への修正

 金融機関では企業から決算書の提出を受けると、財務諸表の数値を自社のデータベースに登録します。次にBS・PLの項目を正しい格付を行うために修正します。この処理を実態財務への修正と言います。具体的にどのようなものがあるがご説明いたします。
①不良債権の修正
 例えば売掛金の内訳書を2期分並べて全く残高の動いていない場合は回収不能のものと見なして、資産のマイナス要素とします。
②役員貸付金、役員借入金の修正
 役員借入金は帳簿上だと固定負債になりますが、中小企業では法人と個人を一体としてみるため、資本金とみなすケースが多いです。そのため、帳簿上だと債務超過となってしまっている場合でも役員借入金を差し引くと実態では資産超過とみる可能性もあります。
 役員貸付金については会社のお金が個人に流れているのではないかとみられる可能性が高いです。また、残高が固定的になっているととても印象が悪くなります。計画的に返済をしている印象を与えるためにも、残高を減らしていくことが必要です。あまりにも金額が多額な場合は管理がずさんであることや、公私混同しているのでは?と判断されマイナス評価となります。
③資産の評価洗替
 土地や株式などの有価証券は基本的に毎年評価が変動する資産です。そのような資産は決算時点での時価評価の価額に正しく修正を行います。実態値を見誤らないようにするために行うものです。よくある例がゴルフ会員権の評価替えです。
④減価償却費不足額の修正
 当期は減価償却費を計上すると赤字になってしまうため、減価償却費を計上しないというケースもあるかと思います。しかし、別表16の記載から金融機関にはわかってしまいます。そのため、帳簿上だと黒字でも格付では修正され、格付が下がってしまう可能性はあります。

3.格付の4つの指標

 実態財務への修正後は大きく分けて以下の4つの指標で格付を行います。

  • 返済能力…完済する力があるか?(債務償還年数何年か?)
  • 成長性…前年と比較してPLの項目は増加しているか?(売上高、経常利益前年対比何%増)
  • 安全性…短期・長期の両面において潰れない企業か?(自己資本比率、資産超過or債務超過)
  • 収益性…儲かっているか?(売上高経常利益率、赤字or黒字)

4.最後に

 今回は金融機関が格付を行う際に行っている、実態財務への修正についてお話しさせていただきました。実態財務へ修正されることによって、融資審査や条件に大きく影響を及ぼしますので、今回ご説明した点も踏まえて、実態に即した正しい決算書を作っていきましょう!